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房総沖冷水渦

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  【基礎知識-001-10】 房総半島の南東沖にしばしば強い 冷水渦 ができます。この 冷水渦 はとても特徴的な現象なのですが、これに注目した研究は何もなされていません。ですから、名前すら付いていません。海天ではこの渦を「 房総沖冷水渦 」と呼ぶことにします。図001-12にこの渦の水温分布、図001-13にリングを形成した表層流れを示しておきます。水温分布(水温急変部)と表層の流れが良く似たものとなっているのが分かるかと思います。  図001-12 房総沖水渦(400m深水温)  図001-13 リング(表層流れ、水温と同時期) 水温図で注目して欲しい点は400mもの深いところの水温が示されていることです。深いところの水温分布が表層の流れと良い一致を示すのです。多くの方が400mもの深いところの水温は表層には関係ないと考えているかもしれませんが、実はそうではないのです。海天が400m深の水温を表示できるようにしているのは、それなりの深いわけがあるのです。 冷水渦 は深いところから冷水が富士山のように立ちあがった形をしています。ですから100m深とか200m深になると、冷水の範囲は400m深に比べずっと小さくなります。

津軽暖水渦

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  【基礎知識-001-9】 日本海を北上してきた対馬暖流の大部分は津軽海峡を通って太平洋側に出て行きます。津軽海峡の東側は冷たい親潮水で満たされています。そこに暖かい水が出てくるのですから非常に目立った 暖水渦 が形成されます。暖水塊の中心部と周辺部では10℃以上の水温差ができます。この 暖水渦 には 津軽暖水渦 と言う名前がついています。ただ、この渦はいつも存在しているわけではなく、対馬暖流が強い7月から10月の間だけ見られます。 図001-10 暖水渦(50m深水温) 図001-11 リング(表層流れ、水温と同時期) 暖水塊 周辺の流れを示すと図001-11のようになり、典型的なカレント・リング(時計回り)が形成されています。顕著な 暖水塊 ができればその周囲には必ず流れが生じます。水温が高いと言う水の特性にだけ注目するなら、 暖水塊 と言う言葉が適切ですが、流れに注目するならリングと言った表現になるでしょう。現実には 暖水塊 と流れとは密接に結びついた関係にあるので、 暖水渦 と言った表現が適切なものとなるでしょう。

暖水渦と冷水渦

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  【基礎知識-001-8】 水温分布と流れの関係を少しくわしく見るために日本海南部での水温分布を拡大して見ます。図001-8に水温の分布を、図001-9には流れの分布を示してあります。ここで取り上げる 暖水塊 や 冷水塊 にはAからDまでの名前を付けてあります。A、B、Dは 暖水塊 、Cは 冷水塊 です。 図001-8 日本海の南部(対馬暖流の源流部)での水温分布(50m深) 図001-9 水温観測と同じ時の表層の流れ 暖水塊 の回りには時計回りの流れができていて、 冷水塊 の周りは反時計回りの流れとなっています(矢印が無いところは流れが弱いところです)。各水塊の中心部では流れは弱く、周辺部で強い流れの輪ができています。この流れの輪のことをカレント・リングあるいは単にリングと呼ぶことがあります。水塊には必ず渦状の流れがともなっていることから、今後は 暖水塊 を 暖水渦(だんすいうず) 、 冷水塊 を 冷水渦(れいすいうず) と呼ぶことにします。

日本海の暖水塊や冷水塊

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  【基礎知識-001-7】 日本海も 暖水塊 や 冷水塊 で埋め尽くされた海です。図001-7に100m深での水温分布を示しておきました。 図001-7 100m深の水温分(2014.09.20) 面白いことに、 暖水塊 や 冷水塊 ができる場所はあまり変わらないのです。したがって浜田沖 冷水塊 、若狭沖 冷水塊 などと名前を付けられた水塊も出てきます。これらの水塊は時間とともに大きさや中心部の水温が変化して行きます。したがって、水温分布図を毎日見ているとそれぞれの水塊がどのように変化しているのかが良く分かり、見ているだけで楽しいものです。海天の水温分布図は動く地図と言ってよいかも知れません。 水温図を見るにあたっての1つのポイントは 暖水塊 と 冷水塊 の配置状態です。 暖水塊 と 冷水塊 が交互に配置されています(千鳥格子あるいはチェッカーボード状に)。両者の間には強い温度前線(水温の急変部)ができてていて、ここには強い流れができています。流れがどちら向きになるかを考えて見て下さい。

暖水塊や冷水塊を取りまく流れ

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  【基礎知識-001-6】 暖水塊や冷水塊は同心円状の等温線に囲まれています。 以前 に、海の水は等温線に沿って流れ、流れの向きは水温の高い方を右側に見るように流れると書きました。そうすると、同心円状の等温線で囲まれた 暖水塊 や 冷水塊 の回りの流れはどうなるのでしょう。等温線が円形状にとじているのですから、海水は等温線に沿ってぐるぐると回ることになります。流れの向きは水温の高い方を右側に見るように流れるのですから、 暖水塊 の場合は時計回り、 冷水塊 の場合は反時計回りの流れとなるはずです。図001-5に示した水温分布に対応した流れの計算結果を図001-6に示しました。 図001-6 表層の海流分布(2013.09.23) (図001-5に示した水温分布に対応) 図をみると、③の 冷水塊 の部分には反時計まわりの渦ができており、②の 暖水塊 の周りには時計回りの渦ができています。①の 暖水塊 の回りにもはっきりとした時計回りの渦ができています。

暖水塊と冷水塊

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  【基礎知識-001-5】 海の内部は比較的単純な構造をしていると考えられてきました。そのため、観測点の配置もまばらにしか取ってこなかったので、観測結果も単純な構造になっていました。しかし、くわしい観測が行われるようになってくると、現実の海は非常に複雑な構造をしていることが分かってきました。東北沖での100m深の水温分布を見ると、海の複雑さが良く分かります。 図001-5 100m深の水温分布(2013.09.23) 水温の高いところや低いところが複雑に分布しているのが見て取れます。北海道の東にある 暖水域 ① 、金華山の東方にある 暖水域 ② 、房総半島の東南東にある 冷水域 ③ などが主なものとしてあげられます。これらの水域は周囲よりも水温が高かったり、低かったりするので、同心円状の等温線で囲まれる事が多いのです。②のようにや中心部の水温が高いものを 暖水塊(だんすいかい) 、③のように中心部の水温が低いものを 冷水塊(れいすいかい) と呼ぶことがあります。①は中心部の水温がかなり低くなっているものの、周囲の水温が低いので立派な 暖水塊 です。

黒潮が大蛇行を始めました!

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 【T-001】 紀伊半島の東側では黒潮は陸岸から離れるため、時によって流路が大きく曲がりくねることがあります。黒潮の流路が曲がりくねることを黒潮が蛇行(だこう)すると言います。2015年の7月25日ごろから黒潮は紀伊半島の潮岬を過ぎると流路が不安定になり、現在(8月5日)では図001Tに示す様な流路を取っています。黒潮本流が北緯31度30分あたりまで南下しています。この様に黒潮が北緯32度以南にまで南下した状態を黒潮の大蛇行(だいだこう)と呼んでいます。 黒潮が大きく曲がりくねった陸側では広い範囲が低水温となっています。この低水温部分を黒潮の大冷水塊(だいれいすいかい)を呼んだりもします。黒潮の大蛇行と大冷水塊は紙の裏と表の関係の様なもので、両者を切り離して考えることはできません。紀伊半島から千葉県に到る範囲の漁業には何か大きな変化があっても不思議ではありません。図001Tの伊豆諸島周辺の水温分布状態を拡大して示すと図002Tのようになります。大蛇行が一旦発生すると、1年から2年程度は蛇行状態が続きます。コラムではこの大蛇行(あるいは大冷水塊)を今後とも追跡し、どのような運命をたどるのか見続けて行きたいと思います。 図001T 黒潮の大蛇行を示す200m深の水温分布(2015.08.05) 図002T  200m深の水温分布(2015.08.05)を拡大表示

紀伊半島南での黒潮(2)

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  【基礎知識-001-4】 前回示した水温と同じ時の流れの状態を図001-4に示しておきました。薄黄色をした部分は1ノット以上、赤い色の部分は2.5ノット以上の流速を持った部分で、ここが黒潮の本流部分です。200m深に見られる温度前線の位置と強流帯の位置が良く一致しているのが分かります。 海の等温線は気象の等圧線(気圧分布)とよく似た関係にあります。等圧 線の 込んだ部分は強い風が吹きますが、等温線が込んだ部分も流れが速くなります。風はほぼ等圧線に沿って吹き、風の向きは右側に高気圧を見るように吹きます。流れの場合、向きは高温を右側に見るように流れます。やや深いところの水温分布を見ると、おおよその流れの状態も理解できるのです。 図001-4 表層海流分布(2013年10月29日)

紀伊半島南での黒潮(1)

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  【基礎知識-001-3】 黒潮は紀伊半島まではほとんど陸岸に沿って流れて来ますが、紀伊半島の先端部(潮岬)を過ぎると陸岸から離れて流れるようになります。この部分での200m深の水温分布を図001-3に示しました。狭い範囲で水温が12℃から18℃に急激に変化しています。このように水温が急変する部分を温度前線(おんどぜんせん)と呼んでいて、温度前線には強い流れがともなっています。ここに示した温度前線こそが黒潮の正体なのです。 しばしば「黒潮が暖かい水を運んでくる」と表現されます。文学的にはそれでもよいのでしょうが、現実には黒潮は暖かい水も冷たい水も運んでいるのです。温度前線に沿って流れは生じているのですから、200m深の前線の陸側では12℃くらいのやや低温の水を、沖側では18℃くらいの暖かい水を運んでいるのです。 図001-3 200m深での水温分布(2013年10月29日)

黒潮の流速

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  【基礎知識-001-2】 前回示した水温図に対応した流れの計算結果を図で示すと、下の図(図001-2)のようになります。流れの向きは矢印で、流れの速さは色で示されています(右わきのカラーバーを参照、単位はノット)。黄色から赤の色で示された部分が黒潮の本流部分です。黒潮の流速は1ノットから3ノット(0.5m/s~1.5m/s)程度あり、1ノット(0.5m/s)以上の流速を持つ黒潮の幅は狭いところでは50km以下、広いところでは100km以上あります。 重要なことは、強流帯が200m深の15℃線(図001-1参照)に良く沿っている、と言うことです。 図001-2 2014年9月13日の表層海流分布

黒潮本流の位置を知る

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【基礎知識-001-1】 黒潮は大変強い流れなので、船を動かしている人々にとっては、今どのあたりを黒潮が流れているのかを知ることがとても重要になります。漁業者にとっても黒潮の位置を知っておくことは効率的な漁をする上で欠かすことのできない情報です。 どのようにしたら 黒潮本流の位置を知ることができるのか?海の流れを測定するのは容易なことではないのです。 実はよい方法があります。それは深度200mの水温分布を見ればよいのです。この深度での15℃の等温線の位置が海面付近の黒潮本流の位置とよく一致するのです。これは学問的にも確かめられている事実です。「200m深の15℃等温線」おぼえやすい数字ですね。 200m深の水温分布がどのようなものか、図001-1に示しておきました。本州南方の広い範囲が18℃程度の水温になっていることが良く分かります。ところが、日本列島付近では水温が急に変化する部分が帯状になっているのが見られます。沖合側で18℃くらいあった水温が陸側では13℃以下に急に下がっています。この帯状になった水温急変部分こそが黒潮なのです。 図001-1 2014年9月13日の200m深での水温分布

このコラムの狙い

  今や、地球上いたるところの気象状況を簡単に知ることができるようになっている。ところが、海の様子となると海面水温が分かる程度で、内部を知ることなどできはしない。しかし、現実には海に関するとてつもない量のデータがほとんど使われることなく眠っているのである。我々はこうしたデータを誰が見ても分かる図にして、「海を見える化」するプロジェクトを立ち上げた。多くの人々に海と魚に関心を持ってもらいたいからである。その結果が「海天(うみてん)~海の天気~」である。これによって陸上に居ながら、海の様子を簡単に知ることができるようになった。海天は現在も進化と深化を続けている。 このブログではもっぱら「海天」の中の図を用いて、これらの図から何が読み取れるのか、海の理解につながる話を進めて行きたいと思っている。「海天」を利用してくださる初心者から、プロフェッショナルな方までに対応した内容にしたいと思っている。 書いている内容に間違いがあったり、質問やご希望がある場合には下記までご連絡頂ければ幸いです。ご質問にお応えするのに多少時間がかかるかと思いますが、そうした場合はご容赦下さい。