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黒潮の蛇行パターン

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【基礎知識-001-17】 黒潮は大陸棚や陸岸に沿って流れているのですが、紀伊半島周辺からは陸岸から離れ、曲がりくねりくねった流路(黒潮の蛇行)を取るようになります。この曲がりくねった流路にはいくつかのパターンがあることが知られています。海上保安庁は図001-20に示す様な流路パターンを提示しています。 図001-20 黒潮の蛇行パターン(海上保安庁HPによる)   ここで注意すべきことが2点あります。1つは蛇行には「大きな蛇行」と「普通の蛇行」の2通りがあると言うことです。学問的には「大蛇行」と「非大蛇行」と言うかた苦しい表現が使われています。黒潮蛇行の南端部分が北緯32度より南に下がるものを大蛇行と呼んでいます。2つ目はこれらのパターンが個別独立に存在している訳ではないということです。時とともに蛇行状態が変化して行く中で、特徴的なステージに名前が付けられているのです。A型とB型は蛇行がつくりだす冷水塊の位置が伊豆海嶺の西側にある場合で、C型は伊豆海嶺をまたいで冷水塊が存在する状態、D型は伊豆海嶺の東側に冷水塊が存在する状態です。N型は黒潮が蛇行せず、直進している状態です。多くの場合(A)→B→C→D→Nと言ったパターンの変化をします。逆の順序、D→C→B、での変化は老人の知る限りありません。2015年の7月末に発生した蛇行はやや小ぶりのA型からB→Cへと変化してきています。

黒潮大蛇行(その2)

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  【T-004】 今年の8月初、黒潮の流路は大きく曲がりくねりだし、黒潮大蛇行の状態に入りました。8月の末には蛇行状態は緩やかになり、黒潮冷水塊の位置も東に移りました(図006T)。それから1ヶ月後の9月下旬には(図007T)に示す様な流路となっています(15℃の等温線が黒潮の流軸とよく一致する)。 8月下旬、黒潮の蛇行は緩やかになってきていますが、黒潮冷水塊は円形をしていて、確りした渦状態を保っていました。しかし、9月の末になると、黒潮冷水塊の中心部はばらけ、水温も上昇してしまっています。黒潮の大蛇行が終わりつつあるのかも知れません。 図006T  200m深水温分布(2015.08.26) 図007T 200m深水温分布(2015.09.27) 一つ注目すべき点は房総半島沖の黒潮流路です。8月末時点では黒潮が房総沿岸に極めて接近して流れていたのですが、9月末では大きく離岸した流路を取っています。この図で見る限り、大して離れていないと思われるかも知れませんが、実際には150km以上も離れているのです。こうした状態を「房総沖の口があく」などと言うことがあります。黒潮が離岸し、口があいた状態になると、ここを通って親潮系の冷たい水が関東・東海沿岸域に入り込んできます。房総沿岸の漁模様は黒潮の離接岸によって大きく変化しているはずです。

三陸沖の好漁場をつくる夏の表層水(その4)

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  【基礎知識-001-16】 三陸沖(亜寒帯域)の海が好漁場をつくりだす最も重要なことは、夏と冬の期間がはっきりと分かれていることにあります。春と秋の期間が短いと言っても良いかもしれません。南極や北極では白夜と言って1日中太陽が沈まない期間ができます。三陸沖のような亜寒帯域では夏、白夜にはならなくとも太陽が出ている時間(日の出から日の入りまでの時間)は15時間以上にもなります。一方冬の間は9時間位しか太陽が出ていません。しかも太陽が高くに上らないので、海が受け取る太陽光の量はもっと少なくなります。 太陽が出ている時間が1年を通じてどのように変化するのかを、北の根室(43°20′N)と南の鹿児島(31°36′N)を例に、図001-19に示しました。夏、太陽の出ている時間は鹿児島より根室の方が長いことに注目して下さい。 図001-19 日の出から日の入りまでの時間 三陸沖の海は夏と冬とでは太陽の光の量に大きな差があって、夏にだけ盛んなプランクトン類の生物生産がおこなわれます。別の見方をするなら、この海域は生物の生育に適した時間が半年しか無いので、小さな生物(餌生物)しか育たないのです。三陸沖で取れる大きな魚は、この海の豊富な餌を狙って南の海からやって来て、大きく生育したものなのです。

三陸沖の好漁場をつくる夏の表層水(その3)

  【基礎知識-001-15】 秋になると、三陸沖の海は日光が弱くなり、風や波が強くなってきます。その結果、海面からは熱が奪われ、表層の水温は急に下がってゆきます。水温が下がると表層水は重くなり、上下の混合が盛んになります。その上、波による上下混合も盛んになるので、表層混合層と呼ばれる水温や水質の一様な厚い層(100m程度)が形成されます。 表層混合層は良く耕された畑のようなものです。なぜならば、夏の表層水はプランクトンによってすっかり栄養分を使いつくされた水になっていたのですが、上下水の混合によって深いところにあった栄養分が表層にたっぷり持ち上げられた状態となっているのですから。 春になり、日光が強くなると表層混合層の海面近くでは豊かな日光と栄養分とを利用して一気に植物プランクトンが繁殖します。それを餌とする小さなエビなどの動物プランクトンも大増殖します。水が十分に暖かくなり、餌がたっぷりとある三陸沖の海にはこの餌を求めてイワシ、サバ、イカ、カツオ、マグロと言った魚が次々と集まってくるのです。三陸沖が豊かな漁場となるのは暖かくて、餌の豊富な夏の表層水があるからなのです。しばしば言われるように「親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかって好漁場を形成する」と言う訳では無いのです。